世間の常識に従って、哀悼の意を表すると言わねばならないところだが、人智学徒の私としては、「新しい人生を始められたのだな」という認識を持つ。
森永氏の著書で、最も印象に残っているのは、『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』(集英社インターナショナル新書)である。特に興味をひかれたのが、「5章 人と地球を救うガンディーの経済学」である。森永氏は鋭く、経済や地球の未来について本当に危惧しておられ、経済の諸盲点を抉り出されていたと思うが、その思想・言動になっているものは、愛以外に想像できない。
この第5章では、「消費や投資を通じて、近くの人を助ける」というガンディーの思想を紹介しているが、「それは、利他主義を考えるときの明確な基準だ。」とも言っている。人智学と共通するのは、「それも、お金を寄付するという形ではなく、身近な人が生産した商品を買うという形で支援を広げていくのだ。」の発言の内意に含まれている。“身近な人が生産する”というのは、文字通りの意味を超えて、職人(どんな仕事をする人も)が働いた喜びを、消費する人がともに実感できるか、という問いに直結するように思う。人智学では、このことを「経済での友愛」と呼んでいる。
最期に同章から森永氏のエピソードをひとつ。イタリアに行かれてネクタイ屋さんに寄ったときの時のこと。“私はネクタイ店に飛び込み、「何でもいいから、ネクタイを10本ください」と言った。その瞬間、店主は真っ赤になって怒り出した。「自分たちが、どんな思いでネクタイを作っているのか、分かっているのか。顧客の服装やTPOを思い浮かべながら、それに合うネクタイを一つ一つ魂を込めて作っているんだ。それを何でもいいからとは何事だ!」”と言われたとのこと。
私は、今日出かけに履いていった靴が、誰が作ったのかを知らない。また、私が作った本が誰にどう役立っているのかも知らない。お互いにこのことに思いをはせられれば、「経済的な友愛」が生まれるのかもしれない。