最古最大の土製カバ像が発掘された記事が新聞に載っていた。日頃よりカバを愛する者として、大変興味をそそられた。紀元前約3600年の古代エジプト、ヒエラコンポリス遺跡で発掘されたその像は、このようなものだ。

新聞では、カバのことを「当時畏怖の対象、墓地を守る象徴」と書いていたが、古代ではどのように思われていたのだろうか。古代エジプトと現代のカバは、同一種らしいので、数千年前とほぼ変わっていないと思われる。まずは、今のカバのミタメ、スガタ、カタチ、シグサ、タイドからどんなイメージが読み取れるかを書き出してみた。

のんびりしていて、かわいい、動物園の人気者。
一見おとなしく見える。
子どもや弱い存在に対する防衛反応が強い。
重くて鈍く太っているが強い。
ちょっとしたことで激しく怒る。
口がでかく、開くと顎と牙がすごい。
そんなところを見てみると、どうやらカバには二面性があるようだ。古代エジプト人も同じように思っていたに違いない。
ナイル川に生きるカバは、非常に危険な動物で、畑を荒らし、人間や船を襲うこともあったという。一方で、カバのメスは子どもを守ろうとする力が強く、そのことで攻撃的になるのは、現代と変わらなかったと思われる。
古代エジプト人はそこに母性や保護する力を見たのだろう。妊婦のような体をした「カバの女神」、タウエレトが残されている。紀元前1550年頃のエーベルス・パピルスや紀元前2000年前後の象牙の魔法棒に刻まれた文などにある。「悪しきものを退けよ」という呪文とともに。

「カバの女神」は、妊婦を守り、出産を助け、悪霊を遠ざけるという、とても日常的で親密な守護神として扱われていたようだ。
感情や欲望の力が極度に‘濃縮’されると、攻撃性と保護衝動が分離しないで、一体化される、という見方ができる。そうすると、そこに善とか悪とかといった現代的二律思考を当てはめようとすると、おそらく間違う。
女神はカバ的なアストラル力が「守護へと転化した姿」といえる。同じ力が破壊にも守護にもなる、という解釈だ。母は子を守り、同時に他者を排除する。この二つは分かれていない。カバはまさに関係を生み出すが、同時に壊す力の象徴といえる。
カバが大きく口を開けているのを見ると、「相手を支配したい」、「関係を独占したい」、「対象を自分の中に取り込みたい」と言っているように読めなくもない。これは、アストラルの摂取衝動と見ることができる。カバは、なんでも飲み込む存在なのだ。
タウエレトは太っていて獣のようで怖い。いわゆる「美しい女神」ではない。
これを見ていると、「生命を守る力は、必ずしも美ではない」という感覚を呼び覚ましてくれるかのようだ。秩序ではなく荒々しい生命力、原始的な命と呼べるような何かに。
タウエレトは、冥界では死者の再生を助ける存在ともされ、墓や天井画にも姿を現す。デンデラ・ハトホル神殿では、北天の星座と結びついた天の女神として描かれている。つまり、沈まない存在として。

地上では「出産の守護者」として、天上では「魂の通過を見守る存在」としてあったのがタウエレトのようだ。北天の星は沈まないため、エジプトでは「永遠」の象徴だった。タウエレトがそこにいるということは「生まれる存在は、すでに永遠とつながっている」ことを表しているような気がする。