人智学的つれづれ草

日常の体験と人智学で学んだことを結びつけ、広げます。

イカの眼に関する神秘的・科学的なこと

書籍の宣伝文に魅かれて、今年の春に出版された『タコ・イカが見ている世界』という本を読んだ。

その宣伝文とは、「イカ・タコなどの頭足類は、人類とはまったく異なる身体・脳の構造を持っている。しかし、他個体とのコミュニケーションや鏡像認知など、ヒトにも通じる高度な知性の持ち主であることが分かってきた。その進化史から特異な身体の構造、そして心の中や社会性まで、最先端の知見を二人の研究者が豊富な図版と共に紹介する。」 というものだ。

魅かれたのはそれだけではなく、目次の第2章にある「タコ・イカの心と知性」というタイトルだった。なぜそういうことに魅かれたのかというと、45年ほど前に書かれた、ライアル・ワトソンの『未知の贈り物』を繰り返し愛読していて、そこにもイカの知性に関係することが書かれているからだ。ちなみにライアル・ワトソンは、動物行動学の博士号のほか、10を超える学位を持った人で、その本の解説は、恩師の高橋巖先生が書かれている。

研究の進展を比べてみようか、という気にもなり、改めてこの2冊を読み直してみた。

『タコ・イカが見ている世界』は、頭足類学と脳科学をベースに、ゲノム解読に帰結する最新の科学的分析が連なっていた。“タコやイカの心の中”、“脳からわかる知性のあり方”等々、項目名にも興味津々だったが、中身は、純然な科学分析の結果が一般用にわかりやすく書かれており、ちょっと期待外れだったが、最新の研究の様子がわかったことは、大変よかった。

150ページほどあるこの本の中で、2行だけ、特別勉強になった言葉がある。

「発見とは、誰もが見たことがあるものを、誰も考えなかったように見ることである」

という文だ。もっともこれは、著者の言葉ではなく、米国の海洋生物学研究所の飼育施設の入り口に書かれているものだそうである。認識力の拡大を謳っているようで、たいへん気に入った。

『未知の贈り物』では、特にイカの眼の特殊性・神秘性に注目している。人間とほぼ同じ構造を持っているのは、イカだけだそうだ。こんな具合に書かれている。

「軟体動物に見られる不思議な目は、機動力に卓越したイカにおいてはさらに進んでいる。海洋イカの複雑な目には、虹彩、焦点調節可能なレンズ、それに、われわれと同程度に色やパターン認識ができる敏感な細胞を十分に持つ網膜などが備わっている。」

イカが他の動物以上の視力を持つことにふれた後、「それ自体、不気味なことだが、さらに、これほどの情報量をいったいどうするのだろうという点が気にかかる。」と述べている。情報を処理する脳があまりに原始的だからだ。

ユニークな視点は、このように書かれている。

「まるで高価な望遠レンズを靴のあき箱にとりつけたような、気ちがいじみた組み合わせになっている。答えはひとつしかない。海洋観察において、イカにまさるカメラ台があるだろうか。イカは、敏捷、迅速、しかも神出鬼没。昼も夜もあらゆる深さに、あらゆる水温に、世界の海のどの部分にも、何十億といる。それらは目に見えない高次の生命存在のための感覚器官として存在させられているのではないだろうか。」 まさに、“誰も考えなかったように見る”があてはまる言葉ではないか!

“高次の生命存在のための感覚器官”という言い方が、とても人智学的だと思った。高橋先生は、「この高次の存在が著者自身でもあれば、読者自身でもあり、そしてその背後にあってわれわれを支えている地球(ガイア)でもあるということである。」とおっしゃっているが、ライアル・ワトソンはそのことを、「地球という素晴らしいシステムの中で、真に魅惑的で衝撃的なことは、われわれ一人ひとりの中に“イカ的なもの”がある。」と表現している。また、「われわれは地球の目であり、耳であり、われわれの考えることは地球的思考である」と言って、エコロジーの本質に触れている。

崩壊に近づきつつある地球環境を何とかしようと、世界は努力しているように見えるが、果たして間に合うだろうか?

今晩は、イカ刺しで一杯やりながら、あらためて感覚というものについて考え直してみたいと思っている。味覚だけではなく…。